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ありったけの愛を

 赤井秀一と一夜を共にしてからすでに3か月が経過していた。
それ以来、彼とは連絡を取っていない。

 お互いの仕事柄、情報交換することはなかったがアイツのことだ。
また新たな任務にでもついているのだろう。

 しかし、幾ら事情があるにせよ想いを通わせた相手なのだから
一言くらい何か言伝があってもいいのではないか。

 今までの自分の態度を考えると、理不尽な要求だとは思ったが
腹立たしい気持ちで一杯の降谷だった。



「降谷さん、何かお手伝いすることはありませんか?」
「ん?いや、例の案件の捜査を引き続き進めてくれれば…」
「でも…眉間にしわが…」



 あぁ、気にするな。仕事とは関係ないことだからと罰が悪そうに
頭を掻きむしる上司の姿を見た風見は驚く。

 降谷さんでも私生活で悩むことがあるんですね…と風見の口から
本音がこぼれ落ちる。

 僕で良ければ相談相手になりませんか?と声を掛けてくれた事が
嬉しくて友人の悩みなんだが…と話し始めた降谷。







「そうですかぁ…」


 話を聞き終えた風見はしばらく黙り込んでから、そのご友人は
自分から相手に連絡したり我がままを言われたことありますか?
と返されて思わず目を見開いた。

 いや…たぶん、何でもこなしちゃう奴だからそういうことは
ないと思う…それに相手が年上だから恥ずかしいし、つい見栄を
張って意地っ張りになるというか…とだんだん小さくなる声。



「電話されてみたらどうですか?本当に仕事で忙しいのかもしれないし…
 相手も連絡を待ってるかもしれません」
「……そうだな……伝えておくよ。ありがとう」



 降谷は口に手を当てながら、僕の助言について考え込んでいる
ようだった。

 その相談相手は、おそらく自分の前にいる上司なのだろうと
簡単に予想がついた風見だったがあえて口を閉ざすことに。

 滅多に弱音を吐かない人なのに、部下に相談するということは
相当参っているに違いない。

 ただ、こんなに冷静沈着で頭の回転が速い彼を振り回している
彼女とはどんな人物なのか逆に気になった。



「風見…」
「はい?」
「今度おごる」



 罰が悪そうに呟いた上司を見つめながら、はい、喜んで!と叫ぶ
風見を見た自分はいつからこんなに態度に出してしまう様になった
のか頭を抱えるのであった。



********************************************************



 書きかけの会議資料を作成していた俺は、堪えきれない睡魔に
負けて体勢を崩し積み上げていた書類が落ちる音で目が覚めた。

 時刻はもうすでに深夜の1時を回っており、風見が置いてくれて
いたのであろうコーヒーを一気に飲み干すと俺は静かにパソコンを
閉じる。

 30歳を目前にして連日の徹夜が続くのは、正直かなりしんどい。
しかし、まだこんな所で倒れるわけにはいかなかった。



『自分から電話されてみてはどうですか?相手も待っているかもしれません』



 そういえば自分から連絡をしたことがあっただろうか…告白も
帰国の連絡も全て赤井からだった気がする。

 風見に指摘されるまで気が付かなった…もしかしたら彼はもう
俺のことなんて忘れてしまったのだろうか。

 これまで付き合ってきた女性も自分のこういう所に愛想が尽きて
去っていったのかもしれないと今更ながらに反省した。

 今から電話をかけても向こうはきっと仕事中だろう…だが降谷は
赤井の声だけでも聴きたくてダイヤルを回す。

 留守電になるかと思いきや、意外にも2コールで出た相手の声に
思わず心臓が飛び跳ねる。



「安室くんか?」



 あぁ…3か月ぶりの赤井の声だ…降谷は思わずあの夜の出来事を
思い出し顔が熱くなってしまう。

 すみません、お仕事中でしたか?と素っ気ない態度でしか言葉を
返せない自分に心底嫌気がさした。

 いや、大丈夫だよ…そういえば、君からの電話は初めてだな…
電話越しでも嬉しそうな赤井の表情が目に浮かぶ。

 こんな時、素直な恋人ならあなたの声だけでも聴きたくて…と
愛の告白でもするのだろうがあいにく俺はそんなタマじゃない。

 相変わらず帰りが遅いようだなと指摘され、適当なこと言わないで
下さいよと突き返した。

 それに、足元がふらふらじゃないか。きちんと食べてるのか?と
聞かれた降谷は思考が停止する。

 赤井…お前、今どこにいる?…恋人からの冷ややかな声に相手は
遠くからクラクションを鳴らして合図した。



「何でお前がここにいるんだ!?」
「もちろん、君に会いたかったからに決まってる」



 何だそのメロドラマみたいなセリフは!いきなり実現した恋人との
再会に動揺する降谷をさりげなく車に乗せる赤井。

 組織の残党狩りに時間がかかっていてな、連絡が遅くなったと素直に
謝る赤井は俺に頭を下げた。

 あのFBIが自分に頭を下げるなんて…仕事なら俺に弁解する必要は
ないだろときっぱり正論を突き付けた。

 その割には機嫌が悪いようだが?と図星を突かれてしまいますます
機嫌が悪くなる降谷。



「降谷くん、そろそろ目線を合わせてはくれないか」
「~~っ、お前は平気なんだろうけど、俺はまだ平常心じゃいられない!」



 予想外の発言に一瞬だけ怯んだ赤井に、降谷はお前にとっては
ほんの些細な出来事でも俺にはかなり勇気のいる行動だったんだ…

 ここはアメリカじゃないのに、お前の余裕ぶった態度が余計
自分をイラつかせるんだと吐き捨てる。

 君は俺が本当に平気だと思うのか?と小さく呟かれた情けない
言葉を聞いて思わず振り向く零。そこには困ったように泣きそうな
顔で僕を見つめる赤井がいた。

 それに、1週間後に合同会議があるだろう?忘れてたのか?と
言われあまりの忙しさにスケジュール確認を怠っていた自分に
愕然としてしまう。

 だから、早めに日本へ来て君に会おうと思っていたのだが…と
赤井は申し訳なさそうに囁く。

 5つしか違わないのに、どうしてこんなにも彼が大人に見える
のだろう…やはり今まで乗り越えてきた修羅場の数が違うのか…
降谷は自分の子供っぽさに情けなくなる。



「零、俺は君をどこに送ればいい?」
「…………」
「自宅が嫌なら、近所までドライブするが」
「……僕の家は遠いので、あなたの宿泊先で良いです」



 了解したとだけ呟きながら、自慢の愛車を発進させる赤井の声は
以前にも増して甘い声だった。



******************************************************



 赤井の宿泊先は、警察庁から20分程度で到着できる県外や外国の
旅行者に人気の有名なホテルだった。

 部屋には、すでに甘ったるい酒の匂いと彼がよく咥えているタバコの
香りが漂っている。

 よく申請許可が下りましたねと不思議そうに聞けば、日頃の行いが
良いからだよと笑われた。



「たまには君とゆっくり話したくてね」



 3か月も放っておいて悪かったな…と俺の頬に優しく触れる手は
とても温かかった。

 別に怒ってないって言ってるだろ…降谷は、赤井のこういう態度が
組織にいた頃から苦手だ。

 お前の手を強く振り払えない自分の性格を分かっているくせに…
全てを見透かされているようで無性に腹が立つ。

 今さら何を話すんですか?お互いの仕事は絶対に明かせないし
あなたとじゃ趣味の話も出来ないですよと降谷は吐き捨てる。



「何でもいいんだよ…子供の頃の話、学生時代の話…家族の話…
今まで経験してきたどんな些細なことでも…」
「……何でそんなこと……」
「俺は組織時代からの君しか知らないからな…ほんの少しでも良い。
 君をもっと知りたいんだ」



 それに俺の滞在時間はあと6日ある。時間はたっぷりあるから
今日はゆっくり休めと赤井は言った。

 しおらしい君も魅力的だが、元気のいい子猫の方が俺は好きだ
と耳元で囁かれる。

 いきなり自分の弱い部分に吐息をかけられ、思わず身体を離し
攻撃態勢に入った。

 何もしないさ、早く風呂に入って身体を温めて来いと洗面所に
促される降谷。



「赤井は…俺のどこが…いや、何でもないです」



 バカバカしい…何を聞いてるんだ。自分のどこを好きになったか
なんて…今時中学生でも言いやしない。

 机の上に置いてあった残りのバーボンを口に含みながら、赤井は
俺の質問の意図に気が付いたようで返事を返してきた。



「じゃじゃ馬で素直じゃない所かな?」
「お前…それは長所でも何でもないだろ!」
「あぁ、でも短所が愛しいと思える相手なんてそう出逢えるもんじゃない」



 酔っているのか、赤井はYシャツのボタンを外していた俺の方へ
ずかずかと歩いてくる。

 ちょっと、何もしないって言っただろ!と牽制すると、宣言したが
君を抱かないとは言ってないと開き直られた。

 3か月も君に触れていないなんて…頭がおかしくなりそうだ…と
恋人から熱烈なお誘いを囁かれどうしていいか分からない。

 君も同じ気持ちだったから初めて連絡をくれたんじゃないのか?
赤井は至極嬉しそうに微笑んだ。



「くそっ…だから連絡したくなかったんだよ…」
「1つ追加しよう…君の照れた顔もすごく好きだ」
「~~~うるさい!!」



 ゆっくり塞がれた口唇は、次第に深くなり降谷の意識を3か月前の
夜に呼び戻す。

 これでもう本当に後戻り出来なくなった…それでもこの男が自分を
求めてくれるなら…

 行けるとこまで走ってみよう…鳴り止まない心臓の音は果たして
降谷のものだったのか…それとも…

 1週間後の合同会議までに元通りのポーカーフェイスで過ごせるか…
俺の不安はいつまで経っても尽きそうになかった。







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