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名前を呼んで

 赤井との遠距離恋愛を開始してから、すでに1年が経過していた。
だからといって、多忙の日々を過ごしている自分たちが会えたのは
年に5回も到達していない。

 すでに前回の逢瀬から3か月以上経過して痺れを切らしていた零は
無理を承知で上司に休暇願いを申し出た。

 幸い組織もすでに壊滅し、残党狩りも落ち着いてきたためその願いは
あっさりと受け入れられることに。



「君が言い出さなければ、強制的に休ませるつもりでいたよ。
日頃の疲れを取ってきなさい」
「はい、ありがとうございます」



 僕が他人のために仕事を休むなんて…今までなら決してありえないことだ。
今までの女性には失礼極まりないが、それだけ赤井に惚れているという
ことだろう。

 おそらく警察庁の中の人間でさえ知らないバーボンの顔を知っている彼の
存在は、今から思えば自分を暗黒から現実世界へと引き戻す光であったと
言ってもいい。

 スコッチの件だって、あの頃の僕だったら真実を受け止めきれずにきっと
死を選んでいた。それを本能的に察知した赤井の優しいウソに僕は何年も…
そして今も生かされている。



「降谷さん、仕事のことは心配しないでゆっくり休んできてください」
「悪いな風見。よろしく頼む」



 風見にだけは行き先を伝達し、緊急時の時だけ海外用の携帯のアドレスに
連絡するようそっと呟いた。

 突然の休暇の申し出に文句ひとつ言わない優秀な部下たちへ労いの言葉を
かけながら急いで警察庁を後にする。目的地はただ一つ、赤井のいるアメリカだ。

 渡米することは連絡していないため、家には戻っていないかもしれない。
もしくは長期の任務についているかも…1週間というギリギリの休暇を申請したが
会える確率は五分五分だった。

 それでもいい…ただ…アイツの声が聴きたい。降谷はこれまで経験したことの
ない衝動に突き動かされたまま飛行機へと乗り込んだ。



**********************************************************



「グッドモーニング!グッドモーニング!グッ…」



 深夜遅くまでターゲットを張っていた赤井は、ようやくその任務から開放
され1カ月ぶりに自宅へと帰ってきていた。しかし、毎朝セットしている
アラームを消し忘れていた自分は深い眠りから叩き起こされる。

 今日は喜ばしいことに日番だ。昼まで寝ようと決めていた赤井は携帯の
電源を切ると再びベッドに突っ伏した。

 そういえば、愛しい恋人と電話越しで会話したのはいつだっただろうか…
任務に就くことは伝えそびれていたため怒っているかもしれないな…と
思いついたように降谷の番号を探し始める。

 そんな時、自宅のベルが鳴った。何回も押されるベルに自分はもしかして
真純か…?と床に吐き散らかしているパンツを急いではく。

 しかし、先程から降谷の携帯にかけているはずの着信音がドアの外から
聞こえてくるではないか。まさかな…と思いながら電話に出た降谷に挨拶をする。



「久しぶりだな、元気にしてたか?連絡できなくてすまない」
「いえ、大丈夫ですよ。僕も短期の任務があったので」
「まだ会社にいるんだろう?何時ごろ終わる?」
「……会社じゃなくて……あなたの家の前にいます」



 おそるおそるドアを開けると、私服姿で片手にボストンバッグ1つ持った
降谷零の姿があった。信じられないといった顔で呆けている赤井を見た僕は
思わず吹き出す。

 ほ…本物か?と頬や髪の毛を触る彼の姿に、あぁ…やっぱり思い切って
あなたに会いに来て良かったと心の中で叫んだ。



「お久しぶりです、赤井!」



 照れていることを悟られまいと頑張って赤井と目線を合わせたが、やはり
見続けることは出来ずに視線を床に落とした。耳まで赤くなっている恋人の
様子が愛しくて自然と笑みがこぼれる赤井。

 よく来てくれた、ありがとうと頬にキスされた降谷は驚いてボストンバッグを
落としそうになったがすぐに態勢を整える。



「もしかして、今から出勤ですか?僕のことは気にしないで下さい。今日から
 1週間だけ休暇をもぎ取ったんで…って赤井、聞いてますか!?」
「……あ、あぁ。すまない驚きすぎて…ちなみに今日は日番だ」



 そうだったんですか…でも、その恰好じゃまだ朝ご飯食べてないですよね?
僕が作りますよと遠慮なく部屋の中に入る。赤井はまだアメリカに自分がいる
ことが信じられないのか頭を掻き続けていた。

 やっぱり迷惑でしたか?と気まずそうに呟く降谷に、赤井は心底困ったような
顔で自分の身体を引き寄せる。

 君が可愛すぎるから必死に我慢してるんだ…と囁かれたため、急いで離れようと
したがすでに口唇を塞がれていた。

 んぅ…と甘い声が漏れ始めると、気を良くした赤井はベルトを外してシャツの中に
手を入れ始める。こうなった赤井を止めるのは少々厄介だが、自分自身も彼を求めて
いたのでどうしたらいいか分からない。



「あっ…赤井!疲れてるんでしょう?僕が起こしますから寝てください」
「心配してくれるのは嬉しいが…そんな余裕はないな」
「ちょっと待っ…あっ…んん!」



 耳から首筋へと流れる舌の動きに翻弄されながら、ダイニングの机に押し倒された
降谷はちょっとここで!?と驚愕しわずかに抵抗を見せる。大丈夫、挿れはしないと
俺の身体の負担を考えて冷静を装い言い放つ赤井。

 そ、そういう問題じゃない!まだ朝だろ!!と赤井の胸を押し返すが、力で敵う
はずもない。前髪を優しくかき上げられた自分は、欲情している赤井の瞳と目が合い
少しだけ怯む。

 逃げようと腰を動かした途端、がっちりと両手で掴まれて激しく揺さぶられる。
久しぶりのその感覚に抗いようのない降谷の身体は、一瞬にして呼び起こされ声を
抑えることができなかった。



「はっ…んぅ、やっ…やだ…あっ、あ…」
「っ…れい…ん…ふ…」
「あっ…もう…あ、あああっ!」



 2人で同時に達したのだろう、赤井は息を切らして僕の上に覆い被さってきた。
そういえばまだ言ってなかったな…とポツリと囁いた彼は、「おはよう、零くん」
と僕に声をかけた。

 律儀なのか、天然なのか、笑ってしまった自分は、「おはようございます、赤井」
と返した。



*************************************************************



 お昼過ぎに動けるようになった降谷は、冷蔵庫にある卵でオムライスと
オニオンスープをあっという間に作りテーブルに並べ始める。

 先程までここで抱き合っていたことを思い出した自分は、赤井がリビングに
入ってきたのと同時に思いっきり身体を反転させた。あからさまな態度に
余裕のある恋人はクックッと喉を鳴らして笑っている。



「……何を笑ってるんですか!」
「何をむくれてるんだ」
「何って!…さっきの…」
「俺はいつ帰って来ても君を思い出せるから嬉しいが」
「~~~変態かっ!!」



 思わず持参したエプロンを投げつけたが余裕で避けられ、さらに降谷を
怒らすことになってしまった。そんな些細な時間でさえ今まで過ごしてきた
過酷な世界を振り返れば何て平和な光景だろう。

 願わくばずっとこんな時間が続けばいいと赤井は本気で思っている。1つ
注文をつけるとしたら自分の名前をいつか呼んでほしいことくらいだろうか…
と彼との未来を思い浮かべながら食事に手を付ける。



「…美味しいですか?」
「あぁ、君の料理はいつも絶品だ」
「…褒めても何も出ませんよ」



 どうやらまだ機嫌を損ねているらしい…そんな素顔でさえ愛おしいのだから
重症だなと自分でも笑ってしまう。どうかしましたか?と心配そうに顔を
覗き込む恋人に思い切って願い事を伝えてみた。

 零、君は俺に対していつも敬語だがそれには理由があるのか?と問われた
降谷はいえ…昔からそうなので癖ですかね…と素直に答える。敬語は徐々に
崩してくれればいいさと赤井は優しく微笑んだ。



「あと…1つ聞いてほしいことがある」
「何ですか?」
「…いつか俺のことを名前で呼んでほしい」



 赤井のことを名前で呼ぶ…それは今まで聞いたこともない彼からの願いだった。
そうだよな…赤井は俺のことを本当の名前で呼んでくれている…だったら自分も
名前で呼ぶべきなのだと降谷は思う。

 でも、自分の性格からして赤井のことを急に名前で呼べるわけがない。それは
少しだけ待ってもらえませんか?と自分は申し出た。



「今、1度でいいから呼んでみてくれないか?」
「~~~何の罰ゲームだ」
「……言わないとまた襲いたくなるが」



 ふざけるな赤井!と立ち上がってスープをつぎ足しに行った後ろ姿を見ながら
ずっと笑い続ける赤井。悔しくなった俺は「笑い過ぎです!!……秀一さん…」
と恋人に聞こえないように静かに呟いた。




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