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隠したくても隠せない

 例年よりクラリネスの新年の準備はいつも以上に慌ただしい。

 なぜなら、大掃除はもちろん各国の使者たちが新しく即位した
イザナ陛下へ挨拶に訪れるからである。

 少なからず、弟のゼンも否応なしにその場への出席を余儀なく
されているだろう。

 もちろん、ゼンの想い人である白雪と直属騎士となったオビも
一時帰還したばかりだ。

 木々は大量に書かれているリストを見ながら頭を抱え、思わず
ため息を漏らす。



「ゼン、さぼってるけど明日の挨拶と来客者の名前覚えたの?」
「あぁ、毎年のことだ。任せろ」
「本当かぁ?今年は結構な人数だったぞ」
「今回は助け舟出せないかもよ?」



 自分の発言に驚いたのか、冗談はやめてくれと目を丸くしながら
リストを探し始めるゼン。

 ミツヒデは、俺も覚えるから安心しろと苦笑いしている姿を見て
ホッとした木々は会場準備のため部屋をあとにした。

 滞りなく飾りつけを終えた面々は、明日の段取りを最終チェック
しながら朝を迎えるのだった。



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「殿下、新年あけましておめでとうございます」



 大広間に各国の大臣たちが集まり言葉を発する光景は、何度見ても
迫力があり異様な緊張感が漂っている。

 毎年のことながら、今回は例年以上の雰囲気にゼンはもちろん
木々たちも飲み込まれていた。

 こんな時でも顔色一つ変えないイザナの姿は、やはりさすがとしか
言いようがない。

 式が始まって2時間ほどした頃、自分の身体に違和感を覚え始めた
木々は内心焦り出す。



(どうしよう…気分が悪いからといって、挨拶の途中で抜け出すわけには…)



 次の大臣が盛大な贈り物を運んできたのを確認した自分は、一旦
整理するために席を外そうと考える。

 イザナ殿下たちに一礼し背を向けた途端、強烈なめまいに襲われた
木々はその場にしゃがみ込んでしまう。

 しかし、気が付くとミツヒデが自分の身体を分からないように支えており
一大事にはならなかった。



「……ミツヒデ……!」
「大丈夫、ここは俺に任せろ」



 瞬時に状況を理解したイザナは、これはこれは…立派な贈り物に
感動した部下が私よりも先に倒れてしまったようだと驚いている大臣の
方に向けて挨拶を続ける。

 もったいないお言葉にございます…嬉しそうな笑顔で微笑む彼らに
これからもよろしく頼みますと一礼して挨拶は終わった。



「木々殿と白雪殿は これらの荷物を丁重に運ぶように」
「…かしこまりました、殿下」
「かしこまりました」



 白雪と一緒に部屋を出た木々は、安心したのかその場に倒れ込んで
しまいオビに医務室へと運ばれることに。

 ゼンは木々の忠告を守らなかったせいか、所々で名前を忘れてしまい
結局ミツヒデに助けられていた。



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 数時間後に目覚めた木々は、私の顔を心配そうな顔で覗き込む
白雪の姿で意識が覚醒する。

 大丈夫ですか!?と自分で煎じたのであろう漢方茶を私の手に
差し出した。

 ありがとう。式は無事に終わった?と尋ねると、問題ないっすよ
とオビが後ろから囁く。

 ここ最近、徹夜が続いてたから…びっくりさせてごめんね白雪…
私は顔面蒼白になっている彼女に謝る。

 もう大丈夫だから2人とも仕事に戻ってと声をかけると、無理は
しないでくださいよとオビに念を押された。







 会食の合間に顔をのぞかせたゼンにも一言だけ告げた木々は、その
足で相棒のもとへと向かう。

 離れの廊下の真ん中で夜空を見上げるミツヒデの口からは、白い
息がこぼれている。

 目を閉じて何かを考えているその姿は、「愛しい」と表現する以外に
名前をつける感情が見当たらなかった。



「ずいぶん長いお願いごとね」
「き、木々!居たのか…」
「何、バレちゃいけないような願いごと?」
「……秘密だ」



 あ、いや、別に他意はないんだ気にしないでくれ!と慌てて顔を
隠しながら視線を逸らすミツヒデ。

 分かってるよとはにかみながら微笑む木々の表情は、暗くて俺の
目には映っていない。

 寝てなくて大丈夫なのか?と心配そうに顔を覗き込まれた木々は
軽い貧血だから問題ないと答える。

 大事な式典だったのに迷惑をかけてごめん…と素直に謝る彼女に
俺は問題ないさと笑って答えた。

 私の調子が悪いって…いつから気が付いてたの?と疑問に思って
いたことを直球で質問する木々。

 う~ん、何となくだけど…今回は助け舟が出せないってゼンに
答えていた辺りかなと罰が悪そうに話してくれた。

 最初から見抜かれていたとは…木々はミツヒデの洞察力に驚く。



「そういうところ、本当ズルイ…」



 え?とミツヒデが後ろを振り返ろうとするのを遮り、私は彼の背中に
そっともたれかかる。

 一瞬、肩が強張ったが自分の行為が振り払われることはなかった。



「木々…」
「…なぁに」
「今年もよろしくな」



 返事をする前にミツヒデに身体を抱きしめられた木々は、答える
代わりにそっと後ろへ手を回した。



******************************************************



 翌朝、イザナ殿下に呼ばれた木々は昨日の失態を謝ったが逆に
謝る必要はないと咎められた。

 その様子に隣で紅茶を飲んでいたハキ王妃は、怒ってるんじゃ
ないのよ、心配してるのと付け加える。

 余計なことは言わなくていい、と後ろから至極不機嫌そうに
囁いた殿下へ王妃はさらに満面の笑みを浮かべていた。



(本当に不思議な方だわ…ハキ王妃…)



 そうだ、ミツヒデには休暇を与えておいた。挨拶の場ではかなり
ゼンが迷惑をかけていたからなとイザナは微笑む。

 やはりそうだったか…木々はますます自分の失態を後悔したが
逆に面白いものも見れたしなと告げられる。

 面白いものとは…?不思議そうな顔で殿下に尋ねた私をイザナは
心底驚いたような顔で見つめられた。



「君は見た目と違って随分と鈍いようだ」
「そう…でしょうか…」
「ミツヒデの行動の面白さは、あの時以外でも駄々漏れだろう?」
「…………」



 しばらくしてその意味を理解した自分は、顔から火が出るほど
真っ赤になってしまう。

 これからも厄介な弟の面倒をよろしく頼む…と含み笑いで言い放つ
殿下にはきっと一生敵わないなと木々は悟った。







 いつも通り、朝のミーティング部屋へ戻ってきた自分を心配した
ゼンたちに大丈夫だったか?と声をかけられる。

 問題ないわ、でもゼンに迷惑をかけられたミツヒデだけには休暇を
与えてくださるそうよと教えた。



「そっか…でも結局呼び出された本当の理由は何だったんだ?」
「………」
「木々?」
「駄々漏れなんだって、ミツヒデは」
「へ?」
「駄々漏れなの!!」



 え!?と訳が分からないミツヒデを尻目に、ゼンとオビは合わせて
合掌するしかなかった。



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