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きっと一生 敵わない

 僕の好きな人は、最近コンビを組んだばかりの相棒である。
その人の名前は、庵堂蘭子。

 極めて優秀だが変人で有名な刑事であり、交流を深めていく
ことで繊細かつ優しい人だと理解できるようになった。

 彼女と想いを確かめ合ったのはつい最近のことだが、僕は
ドキドキしっぱなしなのに庵堂さんの態度はこれまでと全く
変わることはない。

 何だか寂しい気もするが、あの時好きだと言ってくれた
気持ちに嘘はないだろう。



「青山さん」
「はい?」
「私の顔に何かついてます?」



 定時になり、パソコンの電源を切ったり書類の整理を始めた
彼女は不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。

 さっきからボーっとして全然手が動いてませんよ?と心配
そうに声をかけられる。

 いや、まさかあなたに見とれてましたなんて口が裂けても
言えるはずがない青山は思わず咳込む。

 青山~、風邪なら早く帰って休めよ!と半田係長や小宮山さん
までもが口を開きながら会議室へと入っていく。

 体調が悪いなら病院に行った方が…とますます気を遣われて
しまいどうしたものかと考え自分は勢いよく立ち上がった。



「あの…庵堂さん!」
「…はい」
「明日!一緒に映画でも見に行きませんか!?」



 計画性も何もない思い付きから出た言葉に、自分でも驚きながら
彼女の返事を静かに待つ。

 しばらくして、駅前に新しく出来た映画館に行ってみたいです
と蘭子は呟いた。



**************************************************



 待ち合わせ時間の30分前に到着してしまった青山は、思わぬ
デートの実現に眠れぬ夜を過ごしていた。

 まさかOKしてくれるなんて思っていなかった…てっきり
断られることばかり想像していた…

 色々と考えているうち、待ち合わせの相手が近付いてくる気配に
気が付かなかった自分はポンと肩を叩かれる。

 お待たせしましたと明るく声をかけてくれたのは、紛れもなく
庵堂さんだった。

 いつものスーツ姿とは違って、短いフリルのプリントシャツに
カーディガンを羽織りロングスカートを組み合わせた可愛らしい
服装に思わず目を見張る青山。

 予想通りだという反応に、やっぱり変でしたか?と私は彼に
問いかけると、いえ、似合ってます!と即答された。



「ただ…そういう服も着るんだなぁって…」
「え?あ、そりゃまぁ…今日は特別だし…」



 特別!?…嬉しそうに笑顔を向ける彼の表情に一喜一憂して
しまう自分に我に返る蘭子。

 あなたと居るとペースが乱されますと顔を少し赤くしながら
歩き出した彼女の後ろを青山は慌てて追いかける。

 この人は、感情を表面に出さないんじゃなくて…不器用で
照れ屋なのだと僕は思う。



「僕は庵堂さんが好きです。これからも…ずっと傍にいて
 あなたの笑顔を見ていたいです」
「…よく照れずにそういうこと言えますね…」



 自分でもこんなセリフを女性に伝えるのは初めての経験だが
不思議と恥ずかしい気持ちにはならない。

 それはきっと今まで知ることのなかった庵堂さんの境遇と
弱さを知ってしまったからだろう。

 彼女が選んだアクション映画を見終えた後は、相馬先生から
事前にリサーチしてもらっていたイタリアンのお店でランチを
ご馳走した。

 バディを組み始めたころは、まさか彼女のことを好きになる
なんて思いもしていなかったが人生とは分からないものである。

 夜ごはんどうしますか?と僕が聞くと、明日も聞き込みで
早いから遠慮しますと告げられた。

 自分はまだ一緒に時間を過ごしたかったが、年下ということも
あり我が儘を言う気にはなれず、そのまま駅まで送ることに。



「今日は楽しかったです、また行きましょう!」
「私の方こそありがとうございました」



 形式めいた言葉のやり取りに苦笑いしてしまった青山だが
今の僕たちにはこれくらいがちょうど良い。

 これからもっと彼女のことを知っていけばいいのだから…
青山は満面の笑みで庵堂を見つめた。

 あなたには…本当に感謝しています。大文字先生のことや
もちろん…父のことについてもです。と蘭子は神妙な面持ちで
僕に言葉を紡いだ。

 どうしたんですか急に?そのことならもう気にしないで下さい
って何度も伝えたじゃないですか…青山は申し訳なさそうに
私に告げる。



「私は…あなたと違っていつも言葉が足りないんです。それでいつも
 誤解されたりしてました…でも…」
「でも…?」
「…あなただけには誤解されたくないなぁって思い始めてる自分がいて…
 いつの間にかあなたを好きになってました…」



 蘭子の思わぬ告白に、今度は青山が本気で照れるはめになって
しまった。

 はっきり口にされるとこうも心臓が飛び出しそうになるものか
と自分は頭を抱える。

 あなたも何か言ってください!といわんばかりの蘭子の視線に
僕は顔を上げることが出来ずに俯く。



「ずるいですよ、庵堂さん」
「……蘭子」
「え?」
「2人の時は…そう呼んでください」



 ますます顔を赤く染める青山に、自分はいつの間にこの人が
大切になっていたのだろうと考える。

 警察官になってからも、いつか私も父のようになるのではないかと
いつも心のどこかで怯えていた。

 だから私は怪しいと感じながらも大文字先生の所へ救いを求めに
通っていたのかもしれない。

 きっと先生も私の想いを少なからず感じ取っていたのだろう…
それでも私を突き放さず、ずっと守ってくれていた…

 でも…あなたが現れてから私は変わった。あなたが私に出会って
変われたと言ってくれたように…



「ずるいのはお互い様です。私もあなたが好きなので」
好っ!?…さっきの言葉そのまま庵堂さんにお返しします」



 だから…と呆れたように微笑む彼女の顔がゆっくりと近付いて
僕の口唇にそっと触れた。

 蘭子です…いつか呼べるようになってください、年雄さん…
自分の名前を呼ばれた僕は、彼女にはきっと一生敵わないのかも
しれないと思い知る。

 でも、今はそんなことどうでも良い。周りの視線も気にせず
ただただ愛しい彼女の身体を引き寄せて抱きしめた。




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