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俺の弱点は1つだけ

「あんたは私を見ると…
 化けの皮がはがれちゃうんだってば!」






 自分の姿を見た矢三郎は、ようやく彼女が俺の前に
姿を見せなかった理由を知ることになる。

 俺は、今まで海星のことを大きく勘違いしていた。
本当の阿呆は、自分自身であったのだ。

 矢三郎は、彼女から言われた言葉がエコーのように
頭から離れなかったがその代わりある答えに辿り着く。



俺の弱点は、海星…お前だったのか…




*************************************************



 あの事件から早いもので1週間が経とうとしていた。
俺は、兄さんが提案してくれた海星との許嫁復活案の
答えを未だに出せていない。

 アイツもあれ以来、こちらに顔を出すことはせず
ただただ時間だけが過ぎていた。

 庭先で花の手入れをしていた母上を発見した自分は
声をかけながら手伝うことに。



「矢三郎、海星ちゃん風邪を引いたらしいわよ」
「はぁ…」
「気になってたんでしょ?」
「滅相もない…で、母上…その話をなぜ私に?」
「だって許嫁じゃないの」
「俺はまだ承諾しておりません!」



 恥ずかしさからか、ついムキになってしまった己に
母は一瞬驚いた顔していたがとうとう笑いを堪えきれ
なくなったのか軽快に笑い出す。

 そんなに気になるなら会いに行けば良いじゃないの
と勧められたが、行ったとしてもまたお互いが意地を
張り仲直りが先延ばしになるだけだ。

 俺の化けの皮がはがれてしまう事実を皆に知られ
まいとして会いに来ないのも分かっている。

 だからこそ、自分も真っすぐに堂々と海星の元へは
行けないのだ。



「矢三郎…会いたいのなら意地を張るのはお止めなさい。お前たちも
 一緒だけれど、私もお父様に会うことはもう出来ないのだから…」
「……その言い回しはずるいです、母上」
「フフ、お前に幸せになってもらいたいのよ」



 そう言って母は俺の身体を引き寄せて、静かに頭を
撫でた。

 それはかつて父上にされたようにポカポカと温かい
気持ちにさせられ少しだけ泣きそうになった。



***************************************************



 あれから1週間、矢三郎の顔を見ていなかった海星は
天井の空を見上げながら物思いに耽っていた。

 別に寂しいわけじゃない。許嫁には戻れない決定的な
理由を知ってしまったアイツはもうここへも来ないだろう。



「言わない方が良かったんだろうか…」



 いや、この苦しい感情からも家のしがらみも全て解放
されて良かったのだ。

 そうすれば矢三郎だってあんな秘密を知られることも
ないのだから…



「お前はやっぱり、阿呆だな」



 窓の方から聞き慣れた声がした海星は、飛び起きて
振り返る。

 そこには、人間の姿をした矢三郎がこちらを見て盛大に
笑みを浮かべていた。

 お前、何しに来た!?と小声で怒鳴りつける様はやはり
矢三郎にとっては脅威である。

 案の定、狸に戻ってしまった俺を海星は溜め息を吐き
ながら部屋へ招き入れた。



「具合はもう良いのか」
「お前には関係ない」
「関係あるさ…お前は俺の許嫁だからな」



 何言ってるの、断ったはずだろお前…と驚きのあまり
元の姿に戻る海星。

 どういうわけか放っておけないらしいんだよお前の
困った許嫁はなぁと背中を向けて答える矢三郎。

 

「意味わかんない…っく…馬鹿じゃないの」
「海星、意外と泣き虫だな」
「お前なんか…嫌いだ、っく…大っ嫌いだ…」



 何度も嫌いだと呟く彼女を誰よりも愛しいと思ったのは
しばらく秘密にしておこう。



「俺もお前が嫌いだ…あぁ、大っ嫌いだ」



 まだお互いに好きだと言えない俺たちだが、今はそれで
良い。返事をしない代わりに海星は先ほどよりも一層強く
俺の背中に顔を押し付けた。

 矢三郎は、照れながらも恥ずかしがり屋の許嫁の手を
そっと握りしめる。



「……大好きだ、バカ三郎」



 あぁ、やっぱり今も昔も俺の弱点は1つしかないらしい。
阿呆の俺がもっと阿呆になってしまうのは、きっとコイツの
前でだけだろう。



「俺も好きだ…バカ海星」
 



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