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風邪の功名

「ゴホッ…ッ…」



 私、鈴宮深樹は連日の徹夜のせいで体調を崩してしまい
会社を休んでから今日で2日目になる。

 入社して以来、こんなに寝込んだことなんてなかった
のに…深樹は思わずため息を漏らす。

 その理由は決して徹夜だけではないことを自覚している
自分は頬が赤くなった。

 あの日は、連日の徴収作業のせいで私と鏡さんも相当
疲労が溜まっていたと自分は思う。しかし、いつもの様に
些細なことで言い争いになりやけになった私は思わず
あなたが好きだと告げてしまった。

 その時のトッカンの顔は、きっと一生忘れられない顔の
1つに入るに違いない。



やばい…とうとうトッカンに告白してしまった…
いつものように些細なことで言い合いになり、思わず好きだと
口を滑らせてしまった。
クビだ、クビ。間違いなくクビが飛ぶ…!!



 恐怖に慄いている私をみかねた彼は、落ち着けと静かに
肩に触れた。そして…しばらくして鏡さんも私が好きだと…

 まさか…そんなはずはない。私は思いっきり否定したが
彼は笑いながら本当だと告げた。



「俺の言葉は信じられないか?」
「だって…私と鏡さんじゃ…」
「立場なんて関係ない。そんなものはとっくに覚悟してる」



 私の上司は「特別税務徴収官」であり、プライドが高く
常に上から目線の嫌な上司である。

 今までそんな態度は微塵も感じられなかった…すると
隠すのが上手いんだよ俺はと少し照れながら話すトッカンは
いつもの上司ではなくただの男に戻っていた。

 







……ピンポーン……





 そして、今でも信じられないが紆余曲折を経て私の一番
大切な恋人になった人だ。

 鈴宮は誰が訪ねてきたのか分かったうえで、深呼吸をし
扉を開けた。



***********************************************



「……具合は?」
「ケホッ…朝よりはだいぶマシになりました」
「良いから寝てろ。どうせ何も食べてないんだろう」



 職場の態度と2人きりで過ごすときのトッカンは普段
より甘ったるく自分にとっては微妙に居心地が悪い。

 おい、どうした。吐きそうなのか?と問い詰められ
トッカンが優しすぎて気持ち悪いんですと正直に答えると
お前本当可愛くないなと真顔で言われるはめに。

 何かの栄養剤やらプリンやらと机に引っ張り出して
どれが良い?と聞かれる深樹。

 えっと…としばらく悩んでいるとトッカンがゆっくり
近づいてきて頬に暖かいものが触れた。



「ぐっ、な、何するんですか!」
「何ってキスだろ」
「風邪うつるし、お風呂だって入ってないのにっ…!」
「そんなことはな、恋人なったら気にしないぞ」



 こ、恋人…えらくサラッと答えられて激しく動揺する
深樹を宥める鏡。

 彼は、お前がそういうことに免疫がないことくらい
とっくに知ってると面白そうに呟く。

 何だか、からかわれたようで機嫌が悪くなった鈴宮は
途端に大人しくなりお粥を静かに食べ始めた。

 鏡は、そんな私の心情などお構いなしに今日職場で
起こった出来事を丁寧に話している。

 今抱えている案件の進み具合、私の体調が回復して
からの行動指示など的確に告げていく。

 しばらくしてため息を吐きながら鏡トッカンは書類を
置いて自分に質問を投げかけた。 



「お前は俺と話すのが嫌か?」
「……私は風邪です」
「そなこたぁ、分かってる。馬鹿にしてるのか」
「風邪をうつしたくないんです」
「それにしても、すこぶる機嫌が悪そうだ」







「は…恥ずかしいだけです!察してください!!」






 そうなのか?マスクを再びはめた彼女の表情を見ることは
叶わず分かりにくいなお前と呆れたように吐き捨てた彼は
そっと頬を撫でた。

 頑固で意地っ張りで、どうしようもないほどダメな奴。
俺とは正反対で何に対しても相容れない。

 それでも、惹かれてしまうのはやはりコイツが持っている
信念の強さに憧れるからなのだろう。

 再び甘ったるい雰囲気になったのを感じ取った自分は
思わずのけ反る。

 そんな私に鏡は、さすがの俺も病人に手を出したりはしない
とくつくつと笑われた。



「風邪…うつります…」
「うつせド阿呆」


 
 お前が何を心配しているのか察しはつくが、俺はお前を
手放したりしないし呆れたりすることもないときっぱり
告げる鏡。

 心情を当てられて顔を赤くする鈴宮は、分かってるけど
やっぱり不安なんですとか細い声で呟いた。



「まぁ、あの告白はさすがの俺も動揺したが」
「…してたんですか…!!」
「何だ今日はやけに突っかかるな」



 いえ、そんなことは…も、もう夜も遅いし風邪もうつるし
終電なくなりますよ!と思いきり話を逸らし鏡を追い返そうと
する自分にますます嫌気がさした。



「お前が分かるまで何度でも伝えてやる…好きだ、鈴宮」
「……トッカンずるいっ……嫌い…」
「それでも…俺は好きだよ」
「お、横暴っ…自分勝手…自信過剰…んっ…」



 文句が言い終わる前に塞がれた口唇は、もう使い物には
ならなかった。

 観念した深樹は、それでも好きですと彼の肩に顔を埋めて
囁く。

 鏡は深く深呼吸して、煽ったお前が悪いと私を抱きかかえ
寝室へと入っていった。


 


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