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君に惚れている

 組織に潜入していた頃、ハニートラップに成功したものの
薬を盛られるという大失態を犯した俺は、1度だけライに
助けられたことがある。

 もちろん、噂は尽きることはなかったが身体を使って情報を
得たことなど天に誓ってもない。

 そういえば、紆余曲折を経て恋人同士になったばかりの赤井は
君が身体を使っていないことくらい知っていたさと平然と言って
いた。

 一世一代の告白をあっさりと流された降谷は、何で今になって
言うんだと逆に突っかかり、彼に渋い顔をさせた苦い経験も良い
思い出だ。

 しばらくして理由を赤井に聞いてみると、さすがアメリカ人
だなと褒め称えるほど甘い言葉が返ってきた。
「君ほどの男なら身体を使わずとも情報を取れるだろう?」と…










「っあ…あ」 
「零…」


 3か月ぶりの赤井の体温は温かく、久しぶりに緊張していた
降谷の思考をあっという間に飲み込んだ。

 主導権を握りたいと思うのは男の性である。しかし、この男は
それを許さない。

 とめどなく押し寄せる快感から逃げようとする自分を抱きしめ
さらに律動を早くして追い立てる。



「待っ…んぅ、ふ…ああっ…」
「はぁっ、愛してる…零…」



 バーボンであった頃の自分が今、現実に起こっているこの光景を
見たらさぞ驚くであろう。 

 でも、思えばもうすでにあの時からライ…いや、赤井の存在が
俺の心の中にいたような気がした。

 例えスコッチの件がなかったにしても、降谷は何らかの理由で
赤井に恋い焦がれ追いかけていたに違いない。

 そうだ…この男の死を信じられず地の果てまで追いかけると
誓った日が嘘のようだ。こんなに完璧な男に出会えるのは恐らく
最後のような気がした。

 いや…完璧な人間などいない。だが、降谷は心底赤井という
人間に惚れている。今までも、そしてこれからも…



*************************************************

 

 あの日は、いつもの作戦通りにターゲットを部屋へと誘導させ
幾らか身体を触らせた後に情報を得るだけだった。

 もちろん、最後まで身体を許すことはしなかったが数分前に
飲まされたお酒に何か仕込まれていたらしい。

 データを手に入れたのを確認したスコッチは、ジンから要請の
あった仕事に行くため俺たちの無事を確認したのちすぐに現場へ
急行した。



「ライ、バーボン。戻りは明日の朝だ。お前たちはゆっくり休めよ」
「あぁ、気をつけろ」
「分かってる。バーボン、喧嘩すんなよ!」
「…余計なお世話だ」



 いつも澄ましているバーボンの素の態度が見れるのは、スコッチ
の前だけなのだとライは思っている。

 以前スコッチにそう話したら、お前の前でも十分隠しきれてない
と思うけどなぁ?と返された。

 俺には全く分からなかったが、自分を嫌っているバーボンはきっと
今日は帰ってこないだろうと判断するライ。

 案の定、パーキングエリアとは逆方向へ向かっている彼に向かって
目立つ行動はとるなよと釘をさす。

 すると、いつもならギャンギャンわめく子犬が一言呟いただけで
言い合いは終わってしまった。



おかしい…2人を相手したから疲れてるのか?
いや、待て。まさか…



 バーボンは、出来るだけ苦しい表情を抑えいつも通りに振る舞った。
しかし、意識が朦朧としている自分はすぐには気付けなかった。
人一倍カンの鋭いこの男を騙せるはずがないということに…



「バーボン」
「…何だ?もう仕事は終わっただろ。俺は1人で帰る」
「……何を盛られた?」



 図星だったのか、彼の肩がほんのわずかに揺れる。視線を
逸らさない俺に観念したらしく、大丈夫です。スコッチは明日の朝まで
任務で帰らないからどこかで休みますと心底嫌そうな顔で吐き捨てられた。

 チッと軽く舌打ちする音が聞こえたバーボンは、お前に迷惑は
かけないから安心しろ。それにお前の世話には死んでもならないとまで
言われる始末だ。

 仕方なく、腕を引っ張り強制的に連れ帰ろうとするライに彼は
離せ!と最後の力を振り絞って叫ぶ。



「お前のためじゃない。何かあったらスコッチに殴られるのは俺だ」



 ぐっ…と口唇を噛みしめるバーボンは、やはり幼く俺に手を
引かれながら車に乗り込んだ。

 安心したのか、先程までの表情は一変し呼吸も徐々に乱れ苦しい
のか胸を押さえている。 

 一時の気休めにしかならないが、いつも常備している薬を口移しで
無理やり口に放り込む。

 やめろ!!と力いっぱい突き放されたが、その弱々しい行動に
何かを言う気にはなれなかった。

 しばらく身体が熱くなるだろうが、俺は手助けする気はない。自分で
処理しろと冷たく突き放されたバーボンは目を見開く。

 お前…何を飲ませた?と鋭く光る動眼は、俺の心を簡単に射抜いた。
それくらい自分で考えろ、でなきゃここで生き抜けねぇぞと今までの
仕事ぶりに対して警告する。



「くっ、お前なんか…大…嫌いだ…」
「憎まれ口を叩く元気があるなら問題ないな」



 再び動き出した車の居心地の悪さと、次第に襲ってくる眠気に
堪えきれなくなったバーボンはそのまま落ちた。












 次の日、バーボンが目覚めたのは車の中ではなくスコッチと3人で
住んでいる部屋だった。

 ライの薬のおかげだろうか。昨晩よりもいくらかは動けるようで
胸の苦しさも取れていた。



「お、目が覚めたか?バーボン」
「…あ、うん。お前…今帰ったのか?」
「まぁな。ライから聞いたぞ~。風邪ひいていたんだってな!」



 風邪…だと?自分は一瞬、昨日の出来事が夢だったのではないか
と思った。そんなはずはない…俺は薬を盛られて…

 ライの行動に動揺し、言葉が出てこないバーボンに何で隠してた!
言ってくれたら引き受けなかったのにとスコッチは本当に申し訳
なさそうにしている。

 アイツがそう言ったのか?と問い詰めると、そうだよ。ライも
看病したことないから焦ったって言ってたぞと笑われた。

 当の本人は、キッチンで既に次の仕事へ向かう準備を整えていた
ようで俺の様子を確認してから玄関へ向かっていく。

 慌てたバーボンは、ライに感謝しながらもお礼を告げることも
出来ずにただ立ち尽くす。

 くそ…スコッチがいるんじゃ昨日のことも話せない…自分は
仕方なく得意なことで貸し借りを無くす方法を考えた。



「ライ」
「……何だ」
「今夜は…お前の好きな料理作っておいてやる」



 その言葉に、くっくっと含み笑いをしてよろしく頼む、期待して
ねぇがなと手を振りながら仕事場へと向かっていった。

 借りを作ってしまったバーボンは何を作ろうかと献立を考え始めたが
アイツの好きな料理知らない…チッと舌打ちをする彼を見てスコッチは
あいつらだんだん似てきたなと思っていたことなど今は知る由もない。



*************************************************


 
 愛しい恋人の後処理を済ませ、布団にもぐりこんだ赤井は
ぼんやりと時計を見つめる。

 まだ、夜の0時を過ぎたばかりで相当早い時間から彼を
拘束してしまったのだと反省した。

 ただ、情事中に何か思い出したように俺の表情を伺っていた
彼の様子が気になる赤井。

 仕事柄お互いに話せないことも多い。何か複雑な案件を
抱えているなら探りを入れるべきか…

 ふとそんなことを考えていると、うん…と静かにうめき声を
上げる彼の方に視線を流す。



「ん…あかい…?」
「まだ時間はある。何か飲むか?」
「いえ…だいじょう、ぶ…です」
「考え込んでいたようだが、心配事は解消されたか?」



 濃厚な時間を終えた降谷は、まだぼやけている目を見開いて
恋人の腕に寄り添い微笑む。

 赤井は、その可愛らしい仕草は心臓に悪いと言いながら
気だるげな俺の髪の毛に優しく触れた。



「昔…組織にいた頃、あなたに助けられたことがあったでしょう?」 
「ホー…随分、懐かしい話だな」



 あの晩、あなたはずっと俺のそばにいてくれた…邪魔な俺の
弱みを握るチャンスだったのに…これでもあの時のことは感謝
してるんですよと降谷は笑った。

 それに…自分がどれだけ求めてもお前は絶対に手を出さなかった…
あの時は苦しくて本当に嫌な奴だと思ってましたけどね!と最後に
付け加えられる。



「あの頃は尖ってたからな…」
「助けてくれたのは…俺も同業者だと思っていたからですか?」
「…半分はそうだが…」



 もう半分は?と不思議そうに俺を見つめる零くんが可笑しくて
つい笑ってしまった。

 てっきり怒られるかと思ったが、まだ動けない彼は口を膨らませ
拗ねている。

 あの頃の君は傍目から見てもあまりに危うかった。自分自身も
そうだが俺以上に「命」に対しての危機感がなかったように思う。
いや…いつ死んでも構わないという覚悟だろうか。



「赤井?教えてくれないんですか?もう時効でしょ」
「…君を…」
「はい?」
「…手を出したら君を好きになりそうで怖かったんだ…」



 赤井の思いがけない告白に、今度は降谷の顔が真っ赤に染まる。
これだから俺の恋人は可愛すぎて困るのだ。

 そんな嘘つくなよ…お前の態度からはそんなこと微塵も感じられ
なかったぞと半信半疑の目をしている。

 まぁな、俺も今気付いたんだよと白々しく答えるものだから
それ以上何も言えなくなる降谷。



「今も昔も君は変わらないな…
 こんな良い男に認められて俺は誇らしいよ」
「大げさだ…アイツがいたら完全に笑われてるぞ」



 もうひと眠りしようと寝返りをうった背後から抱きしめられた
自分は思わずのけ反る。

 え、っと…と頬を染めて言葉を出そうとしているが俺の手が
下へ向かいながら肌に触れるたび甘い声が漏れた。



「赤井、待って…もう少し時間を…ん…」
「ふっ…あの時触れられなかった分、もう少し付き合ってくれ」
「あっ、や…んんぅ!、あ…ああっ…」



 本当はずっと昔から惹かれていたのかもしれない。生意気な
ガキだと思って遠ざけていたのは鬱陶しいとか嫌いという感情
ではなく、きっとそういうことなんだろう。

 この男が俺のものになるのなら、どんなことだって受け入れる。
どんな時でも君を守り、愛し続けると誓いたい。だから君にとっても
最後の恋であってほしい…

 俺は降谷零という人間に心底惚れているのだから。
 



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