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プロポーズ大作戦

 組織壊滅後、何度も重ねてきた公安との合同会議はもうすぐ
終わりを告げようとしていた。

 1年以上アメリカと日本を往復してきた赤井だが、可愛い
恋人との逢瀬は両手の数にも満たない。

 本格的に捜査が終われば今までのように会うことも難しく
なるだろう。赤井は、降谷に2人の今後のことを相談するため
ある決意を固めていた。

 一方の降谷も、合同会議が終わることで赤井と会えなくなる
ことに寂しさを感じていた。



今まで赤井との繋がりを失いたくなくて頑張ってきたけれど…
やはり僕たちはここで終わってしまうのだろうか…









 FBIとの合同会議が始まる前に、降谷の携帯が静かに音を
鳴らした。その電話の表示主を見た途端、何かあったのかと
急いで通話ボタンを押す。



「降谷です。どうしました?」
「あぁ、突然すまない。アメリカへ戻る前に1つ伝えたいことがあってな」
「何か緊急事態でも?」



 いや、会議の内容や事件のことではないんだが…と赤井は
いつもの雰囲気と違い言葉を濁している。

 今さら僕とあなたの間に隠し事ですか?と俺の相棒はしれっと
言い放つ。あぁ、本当に男前の恋人だ。

 しばらくして、赤井は合同会議が終わったら君はこの関係を
どうしたいのか聞いておこうと思ってなと告げられる。

 どうしたいって…もしかして別れたいってことですか?と
降谷は平常心を保ちながら返事を返す。

 君は俺と別れたいのか!?と焦ったような口ぶりで話す
彼の声を聴いて少なくとも赤井はそう思っていないんだなと
少しだけ安堵した。

 俺は君とこれからも一緒にいたいと思っている。だから…
これからお願いすることを受け入れてもらいたいと赤井は言った。



「零、俺と結婚してくれないか?」
「あぁ何だそんな、こと…え?…」


「俺と結婚してほしい」



 降谷は、突然の申し出に驚きしばらく言葉が出てこなかった。
その様子を隣にいた風見だけは、何事かと俺の発する言葉を
待っている。

 赤井とはずっと恋人だったが、家族になるなど小さい頃から
1人で生きてきた自分にとっては青天の霹靂だ。



「…けっ…結婚っっっ!?」



 ムードも何もありゃしない他愛もない会話の中で、僕の恋人
赤井秀一は一世一代のプロポーズをかましてきたのだった。



********************************************************



 最後の会議は、赤井のせいで全く頭に入ってこなかった。  
プロポーズが決して迷惑というわけではなかったが、伝える
タイミングというものを考えてほしい。

 俺たちの関係を唯一知っている風見は、もしかして赤井さん
からですか?と言われ卒倒しそうになったのは降谷零、一生の
不覚である。



「お受けになるんですか?」
「まさか…俺は赤井に求められるほど立派な人間じゃない。
 それに、これ以上は望まない」



 風見は何か言いたそうだったが、向こうからジョディさんや
キャメルさんが挨拶にやって来たのでそれ以上深くは追及され
なかった。









 深夜になるまで組織の後処理に追われていた自分が、自宅に
戻れたのは日付が変わる1時間前だった。

 もちろん、部屋の明かりはついていた。きっと夕食を作った
赤井が僕の帰りを待っているのだろう。

 俺は何て返事をすればいいんだ?出来るだけ赤井を傷付けず
穏便に答えを出したい。

 重い気持ちを抱えながら、降谷は静かにマンションのドアを
開けた。リビングの方へ進んでいくと、テレビをつけたまま
珍しく赤井は眠ってしまっている。

 今はこんなに近くにいるのに、5日後には赤井は俺の手の
届かない所に再び行ってしまう…



「赤井…どうして今になって結婚なんて…」
「……今だからだ」



 起きてたのか!?急いでソファから離れた降谷の腕をつかみ
そのまま抱きしめる。

 きっとこれまでのように気軽には会えなくなると思ったから
帰国ギリギリで君に伝える形になってしまってすまない…と
赤井は口付けた。
 
 その心情は、自分にも痛いほど分かっている。でも、まさか
結婚という形をとられるとは予想もしていなかった。

 アメリカならば、規制もなくお互い自由に愛することも可能
だが悲しいことにここは日本だ。

 男同士で結婚なんて、世間の目から見れば非難されずとも
実際問題、難問にぶちあたることばかりである。



「今の恋人のままではダメなんですか?」
「そうではないが…」
「僕たちは明日をも知れない身なんですよ?
 たとえ一緒になっても…デメリットしか浮かびません」
「俺は…何か君との形を残しておきたいし、家族になりたいと思ってる」



 赤井の瞳は自分の目をまっすぐ射抜き、決して生半可な気持ち
ではないことが嫌でも分かった。

 動揺で目が泳いでいる降谷に気付いた赤井は、苦笑いしながら
そっと俺の頬に触れる。

 やはり迷惑だったか…すまなかったな。忘れてくれ零くん…と
赤井は切なそうな声で告げた。

 たった数秒間、言葉を詰まらせただけで俺の返事をNOだと
決めつけた赤井に降谷は怒りがこみ上げる。

 今すぐYESと答えられるわけではないが、本当に好きなら
考えてみてくれないかぐらい言えるだろうFBI!。



「お前はっ、どこまで勝手なんだ!勝手にプロポーズしておいて僕が
 答えられなかったら忘れてくれだと!?ふざけるな!!」
「…だったら君は受け入れてくれるのか?」
「そっ、れは…」
「君こそ勝手な言い分だ」



 先程までとは違い、氷のように冷たい赤井の言葉が突き刺さり
深夜になるまで言葉を交わさずお互い別々で眠ることに。

 翌朝、降谷が起きて朝食の準備をしようと赤井の部屋を覗いたが
もう彼の姿はそこにはなかった。



*****************************************************



「ガキか、あいつは!!」



 あれから3日経ったが、赤井が降谷のマンションに戻ってくる
ことはなくとうとう帰国の日が近づいてきた。

 場所の検討はついているものの、初めて聞いた赤井の冷やかな
言葉のトーンが自分の行動を制御させている。

 赤井の帰国まであと2日…これを逃せばきっと永遠に出会う
ことはなくなるかもしれない。

 悶々としている中、ポアロのバイトを終えた降谷はスーツに
着替えると駅の方へとゆっくり歩き出す。

 なぜ電車なのかと言うと、連日の徹夜続きで疲労が堪りこのまま
運転するのは危ないと判断したからだ。

 しばらく歩いていると、向こうから手を振って駆け寄ってくる
女の子が見えてきた。



「安室さ~ん!安室さ…あ、今は降谷さんの方が良いのかな」
「大丈夫だよ、真純ちゃん」









 近くの喫茶店に入った僕たちは、最近の新一くんと蘭さんの
近況や園子さんたちの話題で盛り上がった。

 どうやら、組織壊滅後にデートを重ねているらしく交際は
順調に進んでいるらしい。羨ましい限りだ。

 真純ちゃんは、何か聞きたがっているようでじっとこちらを
見ていた。どうかした?と僕が聞くと待ってましたと言わん
ばかりに質問される。



「単刀直入に聞くけど、シュウ兄にプロポーズされたって本当?」
ぶほっ!!!ゴホ、けほ…」



 どんな相手にも物怖じしない口調は、さすが赤井の妹さんだと
言うべきだろうか。

 降谷さんでも動揺することあるんだねと意地悪く微笑むので
赤井から聞いたの?と問い詰めるとそうだよと答えた。

 あと、こっぴどく振られたってことも聞いてると美味しそうに
苺パフェを口に放り込む。

 シュウ兄が嫌いなの?と聞かれ、違うよと苦笑いする降谷。
じゃあ、シュウ兄が死ぬのが怖いの?と逆に確信を突かれた。

 私は、降谷さんのことが嫌いだったよ。でも、あなただけが
シュウ兄を見つけてくれた。

 ママも私も皆…誰も兄の死を疑わなかったのに…降谷さん
だけがずっと信じてくれていた。



「降谷さん。私は…結婚っていう形に縛られるんじゃなくて
 ただその人と一緒にいたいか…それが一番大切なんだと思う」
「真純ちゃん…」
「それに、もうシュウ兄は1度死んじゃってるんだもん。生き返らせて
 くれた人を嫌いになんて私には出来ないし、そんな人と一緒にいたいって
 思ってるシュウ兄の気持ち…今なら理解できるよ」



 降谷は完全に黙り込んでしまった。まさか、一回りも年齢が下の
女の子に諭されてしまうなんて…

 これには完全に降谷も参ってしまう。自分よりも妹の方が遥かに
覚悟が決まっているとは何とも情けない話である。

 お願い、降谷さんがどっちを選択したとしても口は挟まない。
でも、シュウ兄ともう1度だけ話してほしいと告げられた。

 話をしたくても、どこに泊まっているのかさえ分からない相手を
どうやって探せばよいのかその術すら思いつかない。

 分かっていたとしても、あれだけ赤井を傷付けた自分に今さら
どの面下げて会えというのか…



「実はね…シュウ兄、今日の16時の便でアメリカに帰るの」
「え!?帰国はまだのはずじゃ…」
「黙っててほしいって言われたんだけど、降谷さんに会ったら絶対
 伝えなきゃって思ったの。今ならまだ間に合うから…空港に
 行って降谷さん!」



 ありがとう真純ちゃん…その言葉だけを言い残して降谷さんは
喫茶店を飛び出していった。

 全く…世話の焼ける兄がもう1人増えたみたいと真純は残りの
パフェを美味しそうに食べ続けた。









「シュウ、本当に零に連絡しなくて良かったの?」



 一足先に赤井の見送りに来てたジョディは、意地を張り続ける
元・恋人に説教をしていた。

 良いんだ、たとえNOと言われてなくても彼を困らせることは
本意ではないからと赤井は告げる。



「はぁ~、NOって言われてないなら彼の言い分も聞くべきだったと
 思うけど」
「勘弁してくれ、この年齢で2度も振られるのはキツイ」
「情けないわね、自業自得でしょ」



 ちなみにYESと言われてたら、どうしてたの?と聞く彼女に
FBIを辞めるか、日本大使館に異動願を提出しようと思って
いたと答えられた。

 今となってはもう必要のないことだなと、再びタバコを口に運ぶ
男を見てやっぱり馬鹿だとジョディは嘆く。

 それじゃ、もうそろそろ会社に戻るわ。私たちが戻るまでには
機嫌直してよねと去っていった。









高速道路を最高速度ギリギリでかっ飛ばしてきた降谷は、出発
時刻の1時間前に空港へ到着した。 
 
 案内放送がかかるまであと30分はある。アイツのことだから
どこかで必ずタバコでも吸っているはずだ。

 どこだ…どこにいる赤井!降谷は、ターミナル周辺や喫煙室を
片っ端から探しまくる。

 すると、背後から「零!」と聞き慣れた声がして振り向くと
そこにいたのはジョディさんだった。



「良かった…シュウの見送りに来てくれたんでしょう?」
「えっと、あの…」
「ごめんなさい、もうシュウから聞いてるの」
「あ、赤井は…」
「向こうのエントランスにいるわ。零…余計なお世話かもしれないけど
 これだけは分かってあげて。シュウは本当にあなたのことを大切に思ってる。
 なんたって、あのFBIを辞めるとまで言ったんだから!」



 降谷は、かなり驚いた様子で言葉を失っていた。あなたも
本当に伝えてたいことがあるなら彼に伝えてあげて…

 数日前までは素直に返事が出来なかった自分も、真純ちゃんや
彼女のおかげで伝えることを決意していた。

 深々と頭を下げた降谷は、ジョディさんが教えてくれた赤井の
場所へと急いだ。



馬鹿だ…こんなに追い詰められないと本心が分からないなんて…
赤井と過ごしてきた7年間は僕にとって切り離せるものじゃない
なんてとっくに分かってたのに…
誰よりも赤井のそばに居たいのは自分なのに…



 10分ほど探した頃、黒いニット帽を被り男性たちに交じって
タバコを吸っている赤井を見つけた。



「っ…赤井っ!!!」



 普段は冷静な男の焦った姿を見たのは、いつ以来だったろうか。
赤井は吸っていたタバコを急いでゴミ箱へ落とす。

 どうしてここが分かったんだ?と問う彼に、俺の情報網を
なめるなよと得意げに宣言する。

 真純から聞いたのか?と前と変わらぬ笑顔で聞いてくる恋人に
降谷は素直に「はい」と答えた。

 それから、先程見送りに来ていたジョディさんに教えてもらい
ました…と小声で呟く。

 見送りに来てくれて嬉しいよ、もう会えないと思っていたから
と頭を撫でられる。

 プ…プロポーズの返事をしに来ましたという彼に、赤井は少し
沈黙したあと、君らしいな、俺に最後の鉄槌を下しに来たのかと
苦笑いを浮かべた。



「いつも勝手過ぎるんですあなたは…昔からそうだった」
「ライの頃の話か?あの時は君もすいぶん尖っていたし、お互い様だ」
「僕は……」
「ん?」
「あなたを失ったらたぶん…もう起き上がれない」
「零…?」
「今まで何人もの友人や同僚を見送ってきました。あなたもご存じのはずです。
 その度に大きな傷が増えて…その度に僕は傷を塗り固めてきた。
 あなたまで居なくなったら…今度こそ僕はっ…」



 その言葉を聞いて、赤井はようやく降谷が頑なに結婚を拒否
していた理由を悟った。

 立ち直っていたはずの男は、俺に出会ってしまったことで再び
大切なものが心の中に根付いてしまったと嘆く。

 組織時代には数えきれないほど共に死の淵を乗り越えてきたが
赤井だって不死身じゃない。

 ましてや恋人になってしまった今、お前まで居なくなったら
俺は間違いなく生きていけないだろう。

 でも、お前は生きてる…だったら一緒には生きられなくても…
どこか別の場所でも良い。生きていてほしかったと彼は言った。



「零…俺は死なないよ。たとえ死んでも君を守るためにまた這い上がって
 君に会いに来る。約束しよう」
「どれだけキザなんだ、FBI」
「それに…君のいない未来を選ぶより、君が隣にいる未来を選ぶほうが
 きっと後悔しない」



 あぁ、赤井の言っていたことの意味がようやく理解できた…
お前も同じように怖かったはずなのにそれでも一緒に生きようと
言ってくれていたんだ…馬鹿は…俺の方だった…



「赤井、今度は僕から伝えます」
「なん…」



 言い終わる前に、口唇を塞がれた赤井は大きく目を見開いた。
普段ならこんな人気のある空港でキスしようものなら、拳の
1発でも飛んでくるはずなのに…

 しばらくして離れた降谷の顔は、想像通り真っ赤に染まって
いた。赤井はその顔に思わず見惚れる。

 覚悟を決めた彼の口からは、赤井が一番聞きたかった答えが
零れ落ちた。



「YES以外の返事は認めません。赤井…僕と…結婚してください」



 はにかみながら微笑む降谷を見て、涙が少し零れてしまった
ことは永遠の秘密だ。


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