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蘭子の願い

「いやぁ、今年も終わりですなぁ」


 私の相棒・青山年雄が警視庁捜査1課8係に配属されて
はや1年が経とうとしていた。

 父の事件も無事に解決し、同僚には言っていないが彼とは
パートナーから恋人になったばかりだ。

 相変わらず、半田係長のご機嫌を取っている小宮山刑事を
横目で見ながら蘭子は捜査資料を整理し始める。



「青山がうちに来て、もう1年か・・・」
「え?あ、そうですね」
「お祝いも兼ねて、今日は久しぶりに皆で飲みにいくか!?」



 いいっすねぇ~!と歓喜の声が挙がる中、俺の恋人はやはり
一筋縄ではいかなかった。



「庵堂も久しぶりに…」
「すみません。今日は所用がありまして・・・」



 そそくさと部屋を出ていく彼女を見ながら、青山はホッとした
ような寂しいような気持ちで見つめる。



「…アイツにプライベートな時間があるのか?」



 一瞬の沈黙があってから、全員から「おい!」と総ツッコミを
入れられる小宮山であった。



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 仕事納めを終えた青山は、以前から彼女と約束していた初詣の
待ち合わせ場所へと急いで向かっていた。

 一昨日、係長たちと飲んだお酒はすっかり身体から抜けたが
次の日は頭が痛くて大変だった。

 深夜にも関わらず大勢の人が、カウントダウンを前にして神社へ
集まっている。



1年前までは、自分と彼女がこんな関係になるなんて思いもしなかった・・・
きっとバディを組んでいなかったら、ずっと誤解したままだったはずだ。



 少し明かりの灯った灯篭の下で、いつもアップにまとめている髪を
おろしたストレートヘアの蘭子の姿があった。

 普段は何も持たないはずなのに、大きなトートバッグを提げている
彼女を見るのは珍しい。



「庵堂さん!中で待ってもらってて良かったんですよ」
「いいえ、私も今、来たところですから」



 行きましょうか…とすぐ傍にある階段をゆっくりと上っていく。
こんな時、スマートな彼氏なら手を差し伸べるだろう。

 ヘタレなままの自分に連いてきてくれる庵堂さんは、態勢を
崩しかけたのかとっさに俺の腕をつかんだ。

 大丈夫ですか!?捕まっててください。と告げたものの
度胸のない自分は手も繋げない。



「…やっぱり、私には魅力が…ないですか?」
「え?ちが、違いますよっ!!」



「大事にしたいんです!!…庵堂さんのこと…」



 勇気を振りしぼって握りしめた手からは、この寒さにも関わらず
汗が滲み出ているのではないかと思うほど震えていた。

 彼女は、そんな俺の様子を見ても、ただ黙って腕を組みながら
微笑んでいる。

 1時間後、参拝を終えた俺たちは今年の抱負や、それぞれの
目標について話し込んだ。



「庵堂さんは、何をお願いしたんです?」
「内緒です。教えたら・・・叶わないじゃないですか」
「アハハ、確かに」



 普段はすごくクールなのに、たまにこういった可愛い一面を
見せられる僕の身にもなってほしい。



「あなたは正直な人だから・・・私はすごく救われてるんです」
「え?今、何か言いました?」
「・・・いいえ。美味しいお蕎麦が食べたいなぁと思って」



 庵堂さんの口からお願いされるなんて・・・今までになかったことだ。

 でも、すでに深夜0時を回っている時間だし、空いている
お店も少ない。

 携帯を取り出して、この周辺のお店を調べることにした
青山を見て蘭子は静かに切り出す。



「青山さんの家で食べたいんですけど・・・」
「あ、そうですね。・・・え・・・俺の家?え!?」
「そう思って、お蕎麦も持ってきてあるんです・・・あ、でも、ご迷惑だったら・・・別に・・・」
「いや、えっと!~~~ずるいですよ庵堂さん」




私の願い事はただ1つ。

どうか・・・この先もずっと 
あなたと一緒に同じ時間を過ごせますように・・・




「大好きです」




 そんな言葉を言われただけで、真っ赤になるあなたとずっと
一緒に居たいんです…



 蘭子の心の声は聴けなくても、きっとその表情を見れば
充分に伝わっていることだけは分かる。

 青山は、手を握りしめたまま、きっと今年のお蕎麦の味は
分からないだろうな…と頭を抱え続けるのだった。


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